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ジーニアス・ファクトリー(★★★★☆)


ジーニアス・ファクトリー

ジーニアス・ファクトリー


1980年代〜1999年のアメリカに実在した、「ノーベル賞受賞者の精子バンク」の話。


世の中に存在する天才は少ない。
しかし天才の、例えば科学関係のノーベル賞受賞者の精子のみを集め、女性たちに提供すればどうだろう。
天才が生まれる可能性は格段にあがるんじゃないか?
そして天才や、そうでなくとも一定以上の才能を持った人間が増え、彼らが蒸気機関や電球や相対性理論のようなエポックメイキングな発明をなせば、
『人類の進化』
に繋がるのではないか?


そういうことを考えて、実際に実行したロバート・グラハムという男だった。
グラハムは「割れにくいメガネの新素材」で財をなした後に、「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」という精子バンクを設立した。彼は上記のような信念を持っていたので、「精子ドナーはノーベル賞受賞者に限る」方針にした。
この精子バンクからは、1999年に資金難でつぶれるまでに、実際に200人以上の子供が生まれたが、
『生まれた子供たちは、果たして天才になっただろうか?』
本書では、この点についての追跡調査をしている。


調査結果については、ネタばれになるので差し控えるが、さほど今の日本でも話題になっていないので、ある程度予想のつくものと思う。
ただ、この本の面白さはそれとは別のところにあったと自分は思う。
グラハムの「いささか優生学的に問題のある思想」を可能にした、彼自身の並々ならぬ熱意や実行力。その人間ドラマがおもしろい。
例えば、グラハムが精子ドナーから精子を集める時の様子。
それは、カップを持参してドナーをディナーに誘い、もし相手がドナー契約に「うん」と言ったら、気が変わる前に精子を採取するために、そのままカップを渡してトイレに行ってもらう、というやり方だったようだ。
もしくは、より洗練された方式が必要な相手の場合は、ホテルを2部屋予約して、隣の部屋でうやうやしく待機する、というような。

(グラハムがドナー対象を)口説き落として精子サンプルを採取するときは、まるで妊婦の夫のようにトイレの外を行ったり来たりした。(ドナーがトイレから)出てくると手にしていたカップをもぎ取り、プレパラートに精液をなすりつけ、顕微鏡で観察した。そしてやおら立ち上がると、こぶしを握って叫んだ。「これだ!やはりあなたは思ってた通りの人だ!」


本作の作者は、「ノーベル賞精子バンク」から生まれて成長した少年・少女やその母親に接触し、インタビューを行っている。
そこで語られる成長ぶりや話も興味深いが、それだけに留まらず、作者は本来契約で禁止されている「父親探し」を行うようになる。
つまり、精子を提供したドナーと母子の再会を(大抵は母親からの依頼で)手伝うようになる。
その再会話がまたイイんだが、同時に「精子バンク」というものについて、非常に考えさせられるような内容だった。


全体的によいノン・フィクションだったと思うが、途中で作者が「俺も精子バンクのドナーになってみた体験記」を入れたのは、流れ的にどうかと思ったので読み飛ばした。
また、amazonなんかで指摘されているように、本作は基本的に「統計的な追跡調査」を行ったわけではないので(そもそも全てのドナーが名乗り出て取材に協力してくれるワケではない)、そこら辺を求めて買うと、ちょっと期待ハズレかも。