コーヒー限界を超えた唯一無二の喫茶店「ザ・ミュンヒ」(大阪)。氷温熟成22年物コーヒーは1杯10万円。

「ザ・ミュンヒ」(大阪・八尾市)

大阪で有名な喫茶店「ザ・ミュンヒ」に行ってコーヒーを飲んた。

そのコーヒーは、予想を超えていた。

想定外の、美味さ。

なんだ、このコーヒーは?

初めての感触に、今までのコーヒー像がグニュっと歪んだ後は・・・、もうアレだ。

心地よい漆黒のコーヒー沼に、ズブズブと沈んでいった。

結局お店には、2時間ほど居座った。

静かな店内、客は当方ただ一人。

熱心に語りかけてくる店主の話に耳を傾け・・・

目の前で抽出されていくコーヒーの香りを嗅ぎ・・・

そして3杯のコーヒーを飲んだ。

遂に店を出る時間となった時。

伝票を見ると「5300円」の文字。

コーヒー3杯で、5300円である。

しかし、実に納得のいく値段だった。

不思議と爽やかで、充足した気分で店を出る。

東京に戻ってきてから、考えている。

アレは果たして「コーヒー」だったのか?

コーヒー限界を超えると、あんなに美味いモノが出来上がるのか?

一体、なんだったのか・・・

店内の様子

「ザ・ミュンヒ」は高安駅から歩いて10分、住宅街のど真ん中に佇んでいる。

周囲は本当に何もない、ただただ住宅街。

Google マップ

店に入ってみると、まさしく喫茶店。

創業40年、超老舗なんである。

落ち着いた雰囲気で、懐かしい感じの・・・と、思いきや。

いきなり視界にバイクが飛び込んでくる。

店名の由来となったドイツ製のバイク「ミュンヒ」(MUNCH)。

それは40年前、店主がコーヒーの道を極める前の話。

最初は「名車と珈琲が飲める店」という宣伝で、客を集めていたとのこと。

店内を見渡すと、ズラッと並べられたバカラのグラス

当方、浅学無銭につき「バカラ」というモノも初めて見たが、これは「バカラ」らしい。

店主がお冷やを持ってきた際、その「水」が入ったグラスも「バカラ」だと言っていた。

陶器のカップの方は、古くて良いモノを集めている模様。

カップの1つには、「1860年頃 9万円」という札がついてた。

こんな上品なカップでコーヒーを飲んだのは、初めてである。


席につくと早速、店主がメニューを持ってきてくれた。

72歳、人の良さそうなお爺ちゃんである。

しかし、メニューの方はぶっ飛んでいた。

コーヒー一杯で1300円、2500円・・・、そして10万円。

メニューは、コーヒーだけで100種類くらいある。

※メニューの一部

店主が当方の正面に座り、メニューの説明をしてくれる。

色々聞いた上で、最初に「スパルタン」を頼むことにした。


スパルタン(1300円/シングル20cc)

「一番のオススメはどれですか?」ときいたら、返ってきた答えが「スパルタン」だった。

通常の10倍、1kgの豆で100ccだけ抽出する。

大きな布製フィルターに、チョロチョロとゆっくり時間をかけて抽出。

1杯作るのに、1時間近くかかる。

時間をかけることで「抽出」と「蒸らし」が同時進行し、「嫌な酸味のない、むしろ甘い」コーヒーに仕上がるのだそうだ。

豆は店主曰く、「最高級の豆を13種類ブレンド」。

その配合で、複雑な味わいとコクが出てくるのだそう。

客の前で抽出することもあるが、時間がかかるのでストックも用意している。

このコーヒーは「寝かせると美味くなる」とのこと。

当方は「いろいろ飲み比べがしたい」と最初に注文したので、スグに飲めるようストック分を10分ほどで用意してくれた。

元禄時代のカップで登場、「スパルタン」である。

カップの中に、20ccだけコーヒーが入っている。

シングル=20ccで1300円、ダブル=40ccで2600円。

量が少ないので、ちょっとだけ啜ってみる。

最初の一口で、驚いた。

ちょっと「突き抜けた」美味さだ。

全くもって、初めての味。

こんなコーヒー、飲んだことない。

まず、「とろみ」が違う。

ドロッと濃厚、舌の上で軽く粘り気を感じるほど。

そして、フワッとした甘み。

「甘い?」と一瞬思うんである。

その濃厚な、コーヒーのエキス。

まるでアイスクリームが溶けるように、舌の上でとろけていき・・・

後にはコーヒーの苦みと旨味だけが残る。

舌を刺すような酸味もなく、なめらかに喉を通る。

「なんだか分からないが、この美味い『エキス』をもっと!!」

しかし、量は20ccしかない。

ちびちびと、高級なお酒を飲むように味わっていくのであった。

店主に「こんなコーヒーは初めて飲んだ。猛烈にウマイ」と感想を伝えると、作り方など丁寧に教えてくれた。

そして「これと違いがハッキリしたコーヒーはどれか?」と尋ねたところ、「No.13 ブラックコーヒー」を薦めてくれた。

No.13 焙りたて超フレッシュコーヒー(2000円)

先述の「スパルタン」のように「時間をかけるほど美味くなる」コーヒーもあれば、「出来たてが美味い」コーヒーもある。

焙りたてで美味いのが、「No.13 ブラックコーヒー」(焙りたて超フレッシュコーヒー/2000円)

今度の一杯は、超浅煎りの豆を大量に使い、目の前で抽出してくれる。

抽出時間も、スパルタンほどはかけない。

浅煎りなので、豆の色がスパルタンの時とは異なるのが分かる。

この豆だけでも、3500円はするらしい。

この「超浅煎りの豆を大量に」というのは、熊本の「アロー」と同じだろうか。

店主も、アローのことを知っていた。

熊本の喫茶店「珈琲アロー」。79歳のマスターがハンドドリップで紡ぎ出す、「琥珀色」のコーヒー。

ただし店主曰く「アローとは、またちょっと違う」とのこと。

飲んでみると、確かに味はアローと違った。

方向性が違う感じ?

コッチは色も普通のブラックコーヒーに近い。

飲んでみると、甘い味と香り。

スパルタンとは、匂いからして違う。

和菓子のような…と言うと、店主が言葉を継いだ。

「モナカの皮のような?」

確かにそんな感じだ。ちょっと和風の。

ストレートな加糖の甘みというより、ほんのり黒蜜的な…。

このコーヒー、糖度が19度あるらしい。

そこら辺のフルーツより甘い。

多少のとろみもあり、やはり普通のコーヒーとは全然違う。

このコーヒーについては、二番だしもサービスしてくれた。

普通に買うと1200円のところ、今回はサービスとのこと。

2回目の抽出となると、だいぶ色と味が薄くなった。

やはり一番だしって、ウマいんだな、と。

熟成樽仕込み氷温コーヒー20年物(10万円)

このお店が有名な理由が、これ。

1杯10万円の「熟成樽仕込み氷温コーヒー20年物」。

メニュー記載が古く、正しくは今年で「22年物」らしい。

10万円はいくらなんでも、払えない。

しかし、「おためしコース」はコーヒースプーン1杯分で2000円

スパルタンやNo13で度肝を抜かれた当方、「おためしコース」も試してみたくなった。

それは一体、どんなコーヒーなのか?

注文すると、店主がカウンターの裏から小さな樽をもってやってきた。

なにやら、相当年季の入った樽だ。

店主、22年前に「安いお酒を『熟成』させて美味くする」と流行っていた、家庭用のミニ樽を百貨店で購入。

それにコーヒーをいれて、ギリギリ凍らない温度の「-3℃」で保管して熟成させている。

「コーヒー豆」の熟成はたまに見るが、抽出した後のコーヒーの熟成は初めて見た。

そういえば、銀座の名店「ランブル」で、熟成豆のコーヒーを飲んだことがある。

こちらの店主も大昔、ランブルのコーヒーに衝撃を受けて以来、コーヒーを研究するようになったとのこと。

この熟成樽、原液には上述の「濃くてトロトロ」なスパルタンを使う。

水分が普通よりは少なめなので、腐らずに熟成するとのこと。

注文をうけたら冷凍庫から取り出し、-3℃から0℃に戻るのをまってから、飲む。

0℃になるまで、15分ほどかかる。

そして0℃になってから、ちょっと蛇口をひねってスプーン一杯分・・・。

表面張力でプルプルと震えるコーヒーたん…。

匂いをかいでみると、ほとんどお酒。

舌をちょっとつけて味わってみると…。

フルーティーな甘酸っぱさ。

まるでワインのようだ。

コーヒー感は、あまりない。超越しちゃってる(笑

なんだか、不思議な体験だったな。


ちなみにこの熟成樽、30年まで育てるらしい。

あと8年 (店主は現在72歳)。

そのため、この樽が少なくなってきたら封印して、10年物の別の樽を安く売ろうと考えているとのこと。

(もしくは、この樽とは別に30年育成用の樽があるのかも?聞きそびれたが)

いずれにしろ「スプーン1杯で2000円」ときくと高いが、なにしろ22年きっちり温度管理して熟成させている。

その「時間」を、買っているんだな。

貴重な体験をさせてもらいました…。


そして伝説へ

とにかく、コーヒーへの愛がヒシヒシと伝わってくる店主だった。

今でもバイクで全国各地、コーヒーの美味い店にいって研究するらしい。

最近も、バイクで仙台までコーヒーを飲みに行ったそう。

大阪-仙台をバイクで?

72歳というのが、信じられない。

お店の営業時間は、まさかの早朝6:00-深夜2:00

いつでもお客さんが寄れるように、店を開けている。

大阪っぽさ?を感じるお茶目な面もあり、頻繁に登場するワードがある。

「○○つけてや」

これは、実際にお店に行ってみてのお楽しみ。

それにしても、すごく楽しいご老人だった。

全体的に、コーヒーへの愛が半端ない。

40年間、コーヒーに心血を注いできたのである。

自らのコーヒーに「誇り」を持っており、自己アピールも半端ない。

「この店はな、伝説になるんや」。

しかし、その言葉の通りコーヒーが「超美味い」んである。

そこが凄い。

一方で、話していると店主の人柄の良さが伝わってくる。

優しい人なんだな。

いざ帰ろうとすると、「車で駅まで送るわ」。

そして、こう付け加える。

「客を車で送るなんて、こんな優しい喫茶店、他にはあらへんやろ?」。

「な?」

ついつい、クスッと笑ってしまう。

御年72歳。推しが強くても、憎めないキャラクターなんである。


それにしても、いい喫茶店だった。

初めて飲んだ「スパルタン」は、スゴかった。

店主との会話も、楽しかった。

大阪にくることがあったら、また再訪したいな、と。

そう思いました。

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