バンコク発、南の島行き、ピーが騒めく妖(あやかし)の寝台列車(タイ旅行記/前編)

さよなら、フワランポーン駅

バンコクのクルンテープ・アピワット中央駅に着いた。
この新駅は、フワランポーン駅に代わるターミナル駅として、2021年に開業している。

旅行者にも長く親しまれてきたフワランポーン駅
まだ稼働中ではあるが、徐々にその役割を新駅に移しているらしい。
コロナで久しくタイにも行かない間に、ターミナル駅の交代があったんだな。

あのフワランポーン駅とも、おさらばか・・・。
初めてフワランポーン駅を使った時のことを思い出す。

有人の窓口で、言葉の壁に苦戦しつつも何とか乗車券を購入。
ほっとして駅のベンチに腰を掛けると、不意に国歌の放送が始まり・・・
すると動いていた人々がピタリと止まり、座っていた人は起立し、無言で直立不動の姿勢。
時が止まったような不思議な光景だったが、それを初めて見たのがフワランポーン駅だった。

後から知ったことだが、国歌が流れる間は起立して動きを止めないと、不敬罪で逮捕されるらしい。
特に駅のような公共施設では動きを止める人が多いが、事情を知らない旅行者が罪に問われることはないと聞く。

新しいクルンテープ・アピワット中央駅でも、夕方の6時に国歌を流していた。
駅舎の外には国旗を掲げるポールがあり、駅員が国歌に合わせて国旗を掲揚している。

クルンテープ・アピワット中央駅

クルンテープ・アピワット中央駅は、大きくてキレイな駅だった。
フワランポーン駅の丸い外観と異なり、ピシッとした直線的なデザイン。

今回は、この現代風の新駅から出発して、寝台列車で南へ行くのだ。

こんにちは、クルンテープ・アピワット駅

駅構内は空港のように広く、電光掲示板なども充実していた。
お店やフードコート、自販機やコインロッカーまであった。

クルンテープ・アピワット中央駅 内観

今回乗る寝台列車は19:50発、目的地のスラターニー駅に06:23着。
乗車時間は13.5時間。

更にスラターニー駅から港まで、バスで1.5時間。
そして港からフェリーで、最終目的地のサムイ島へ。

寝台列車+バス+フェリー。
待ち時間も入れると、18時間超の長旅になる。
寝台列車に乗り込む前に、腹ごしらえをせねば。

駅内には小さなフードコートもあったが、あいにくの満席。
キオスクの駅弁を買い食いすることにした。

クルンテープ・アピワット中央駅 駅弁屋

せっかくなので、タイ飯を食いたい。
50バーツ(約200円)のガパオライスをチョイス。

クルンテープ・アピワット中央駅 50バーツの駅弁

別添えのタレは、唐辛子のマークが入っていたので避けておいた。
君子、唐辛子に近寄るべからず。

しかしタレをかけずとも、ピリ辛だった。

辛くて味が濃いので、白米がすすむ。美味しい。
半熟の目玉焼きは、黄身を割って辛さを中和できる。

現地の味付けそのまんまな感じのピリ辛な加減。
久々の感触。

寝台列車(DAEWOO 1996)

出発時刻が近づいてきた。
改札を抜けて、列車に乗り込む。

長い車両を横目に移動していると、食堂車があることに気がついた。
列車の中でも、飯が食えるらしい。
駅で急いで食う必要もなかったな。

タイ国鉄 EXPRESS 車両

予約した車両は、2等車の寝台席、エアコン付き
乗り込んでみると、薄ぼけて古びた内装に、天井の扇風機。

タイ国鉄 車両 内装

レトロ感が堪らない。
昔の日本でもこういう感じ、あったよな、と。

車両の扉に銘板、「DAEWOO 1996 ソウル」とある。
ググってみると、1999年に破綻した韓国の大宇財閥か。
最終的には事業別に切り売りされたようだが、1996年にはまだ健在であった。

タイ国鉄 車両 DAEWOO 1996

なかなか味わい深いレトロ車両で、車両を仕切る扉も壊れていた。
車掌がやってきて、扉を閉めようとガチャガチャ苦戦していたが、うまく動かない。
そのうち諦めて、どこかに行ってしまった。

すると今度は、隣のボックス席にいたタイ人のおばちゃん2人が、扉の問題に取り組み始めた。
気持ちは分かる。
せっかくの「エアコン車両」なのに、扉が閉まらないのでは効果半減。
車両連結部にある乗降口の扉は、下に隙間があり外気が入ってくるのだ。

おばちゃん達が自分の真横であーだこーだと苦戦しているので、言葉が通じない当方も手伝うことにした。
結果、電動で動く扉なのに機械系統がイカれてるらしく、かといって、手動でも動かないことが分かった。

そのうち座席を寝台にセットアップする乗務員が回ってきたので、動かない扉のことは諦めた。

タイ国鉄 寝台列車 ベッドと枕

ボックス席から、2段ベッドの寝台シートへ。
枕と毛布もベッドの上に置かれている。

まだ照明はついていたが、カーテンを閉めれば光を遮って眠ることができる。
自分は2段ベッドの下段を予約しており、さっそく寝台に滑り込んだ。

タイ国鉄 車両 寝台席

時間は夜の21時。
少し早いが皆ベッドに入り、寝る準備である。

しかし隣席オバチャンの夜は、まだ始まったばかり
新たな問題にも果敢に取り組むオバチャン達に、当方もまた巻き込まれていくのであった。

Up or Die / 上へ、さもなくば死よ

動かない扉のことは諦めたオバチャン達。

今度は、寝台ベッドの上段を支える金具をガチャガチャ触って、あれこれ言っている。
そして自分と同じ2段ベッドの上段に寝るタイ人の青年に、何かを訴えている。

おばちゃんが不意にこちらをみて、タイ語で話しかけてきた。
英語は全く通じないし、タイ語は分からないが、要旨は理解した。

「Up or Die」
(上へ、さもなくば死ぬわよ)

自分の上に寝る青年は、お相撲さんのように太っている。
余裕で100kgを越えるだろう。

しきりにベッドの金具を気にしていたオバチャン達は・・・
上段ベッドを支える金具が、彼の体重を「支えきれない」と判断したのだ。

つまり寝てる間に天井が落ちて、当方の圧死は不可避。

そこで名探偵オバチャンが、解決案を導き出した。
もし当方が上段へ、力士青年が下段へと入れ替われば?

ご名答、万事解決である。
オバチャンは、その解決案を当方に提案してきているのだ。

一方、上段と下段には明確な違いがあり、自分は値段の高い下段をあえて予約していた。
下段には窓があり外を眺められるが、上段は窓がないし、少し狭い。

そのためこの提案に一瞬怯んだが、かといってリスクは当方の目にも明らか。
こんな金具で、上段の力士青年を支えられるだろうか。
扉でさえ開閉しないレトロ車両の金具に、どの程度の信頼性が?

迷った挙げ句、オバチャンに「Yes」と回答した。

そこにすかさず、力士青年が「待った」をかける。
相変わらずタイ語で意味が分からないが・・・
どうも「せっかく外人が下段を予約してるのに、それを取りあげるのは可哀想だ」と主張してるらしい。

計らずして、三つ巴の乱戦。

「何を言ってるのこの子は」と、眉をしかめて力士青年を眺める名探偵オバチャン。

力士らしく丸い柔和な笑顔で、下段に寝るようタイ語で勧めてくる力士青年。

下段に後ろ髪ひかれつつも、「オバチャンの親切を無下に断るのもな」と迷う僕。

事実上の、三すくみである。

互いを探り合いながら、無言の時間が続く。
落とし所が見えないまま、ただ列車のガタゴトという音だけが鳴り響いた。

そこに、とうとう巡回中の車掌がやってきて裁定が出た。

車掌は面倒そうに名探偵オバチャンと2,3言を交わすと・・・
オバチャン達は、自分のベッドに引き下がっていった。

車掌が「いや、これくらいの体重なら大丈夫だから」とでも言ったんだろう。

「ようやく片が付いたか」とほっとしつつも、、、
天井が落ちてくるリスクに、微かな不安を抱えたまま眠りについた当方。

そして迎えた翌朝。

タイ国鉄 車両 朝焼け

天井は落ちておらず、キレイな朝焼けが窓の外に流れる。

「生き残った・・・」。

少しずつ青に染まる空と、南国の木々が流れる車窓。
生の実感を噛みしめつつ、感慨深い眺めだった。

ふと周りを見渡すと、名探偵オバチャンも力士青年の姿もなかった。
自分のベッド以外は、もぬけの殻。

もしや・・・

あれは妖(あやかし)の類。
タイの精霊(現地語で「ピー」)の一種だったか。

どうりで、力士青年は不自然に太りすぎていたかも。。。
名探偵オバチャンも、初対面の力士青年や自分に、不自然にグイグイくる感じだった。

ピーは、名探偵や力士の姿になっても現れるんだな・・・。

タイ国鉄 線路

もしくは、寝てる間に到着した駅で下車していたか。

いずれにせよ、真夏の夜の夢のように、朝になると全ては消え失せていたのであった。

スラターニー駅で、朝食を

朝7時前に、スラターニー駅に到着した。

スラターニー駅

ここから車で1.5時間のドンサック港まで移動し、更にフェリーでサムイ島へ。

バスの出発時間まで、2時間ある。
朝メシを食いつつ、街を散策することにした。

スラターニー駅周辺の街並み

近くに「Phunphin Health Garden」という大きな公園があり、屋台がでていた。
朝メシは、この屋台で調達して公園のベンチで食うことに。

Phunphin Health Gardenの屋台

カオマンガイ、45バーツ。
約180円の朝食。

Phunphin Health Gardenの屋台 カオマンガイ

赤いタレは、スルーした。
当方、辛いのは苦手なのよね。

ちょっと鶏肉が生煮えっぽい感触もあるが、美味しい。
ご飯にも出汁が染み込んでいるんだな。

フェリーチケットは2度買う

パスの時間が近づいてきた。
今回はロンパラヤ社のジョイントチケット(バス+フェリー)をWEB予約している。

しかし、駅前に送迎のミニバスがくるはずだが、時間になっても姿を見せない。
この手のバス送迎は遅れてくる可能性も十分にあるが、他に待ってる旅行者がいないのは怪しい。

だんだん、不安になってきた。

周辺のタクシーの運ちゃんに、「ロンプラヤのバスはどこ?」ときいたら、場所を教えてくれた。
駅から徒歩3分ほどの旅行会社(WUTトラベル)の前だった。

スラターニー駅 WUTトラベル

この旅行会社前に、旅行者が集まってきている。

おかしいなぁ~。
確かに予約票には「駅前に送迎」とあったんだが・・・。

バスの受付で予約票をみせて、全ての謎が解けた。

受付のお姉さんが、ひとこと。
「これ、昨日のチケットね」。

おー尿!!
(Oh,No!!)

心当たりは、ある。

今回は航空券の空き枠を探して、直前まで旅程変更を繰り返していた。
そのたびにホテルなどの予約変更もしていたが、このチケットの日付変更は忘れていたのだ。

ぐぬぬ。。。
せっかく代理店を通さず、フェリー会社公式のジョイント・チケットを事前購入したのに。

一応、チケットの日付変更ができるか、受付のお姉さんに確認してみる。
しかし回答は、「日付は過ぎているから・・・」

No Show!!
(このチケットはノーショウで無効ね)

紙くずとなった。

結局、同じ値段でチケットを買い直して、バスに乗り込むことに。
850バーツ(約3500円)、手痛い出費だ。

ロンプラヤ社のバス

しかし、これでようやく島に向かって前進できる。

バスに乗ること1.5時間、ようやくドンサック港に到着。
カタマランボートに乗り込んで、サムイ島を目指すのであった。

ロンプラヤ社のカタマランボート

コロナが明けて、初の海外旅行。
最初の一発目は、自分が好きでよく行っていたチャウエンビーチに行きたかった。

サムイ島は空港もあるので近年だと飛行機を使っていたが、今回は久々に鉄道、寝台列車。
過去に一番「良かったよなぁ」と思い出に残るルート。

寝台列車や駅は、昔よりキレイな感じではあったが、相変わらずローカル感があって味わい深かった。
ピー達と触れあうこともできた。

島に着いてからの話は、また別記事にて。

ロンプラヤ社のカタマランボート デッキからの眺め

ほい。

そんな感じ。

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