JALとZIPAIRと、やがて哀しきzipair.com

JALから新しい国際線LCC「ZIPAIR」のリリースがでた。

2020年の夏に開業を目指し、アジアや欧米路線など中長距離の運航を予定している。

JAL 国際線中長距離LCCエアライン『ZIPAIR』が誕生

『ZIPAIR』の名称は、英語で、矢などが素早く飛ぶ様子を表した擬態語“ZIP”から生まれた造語であり、「フライトの体感時間が短い」エアラインであることを表現しています。

また、“ZIP CODE”(郵便番号)が持っている「さまざまな場所に行ける」というイメージや、デジタルファイルフォーマットの“.zip”のイメージを盛り込み、「至る所に日本人らしい創意工夫をつめて、計算し尽くされた移動体験を目指す」という想いを込めました。

ZIPAIRの公式サイトはコチラ。

ZIPAIR Tokyo

zipという名称の由来に、ファイル圧縮フォーマット「zip」(拡張子)が含まれているというのが、本件のチャームポイントでしょうか。

LCCといえば、座席スペースを狭くして多くの乗客を詰め込むことで、チケット代を安くするのが主流。

ZIPAIRもzip圧縮ファイルのように「グッと客を圧縮」して機体に詰め込むのでは?という突っ込みがきたようで、社長がそれを否定している。

ZIP AIR Tokyoの西田真吾社長は、「名前からお客さまを圧縮するのではないかといううわさ話も流れていますが、私どもは『中長距離LCC』として、お客さまに快適な移動体験を提供したいと思っている」と述べた。

https://www.fnn.jp/posts/00413732CX

まぁ仮に圧縮されたとしても、zipは可逆圧縮なのが救いでしょうか。

機体から降りれば、圧縮された乗客も元通り。

それはともかく、ZIPAIR。

ブランド名としては「ZIPAIR」だが、社名としては「zipair tokyo」と「東京」をつけている。

WEBサイトのドメインも、zipairtokyo.com。

http://www.zipairtokyo.com

さらに、類似ドメインの「zipair.jp」「zipair.net」「zipair.us」も取得済み。

なお、「zipair.jp」と「zipairtokyo.jp」「zipair.net」「zipair.us」「zipair.club」は、2月18日付でブランディングなどを手がけるマークアイが取得している。

Traicy JALの中長距離LCC、ブランド名は「ZIPAIR」に

それなら「zipair.com」も取得して、シンプルにそれを使えば良いんじゃないか?

JALについては、「jal.com」を取得してるワケだし。

ただ、「zipair.com」はすでに他の会社が取得しており、現時点では入手できていない模様。

JALがそれを入手しようとしているかも、知らないけど。

この「zipair.com」というのをチェックしてみると、なかなかの曰く付きなドメイン。

その歴史は古く、少なくとも2002年からすでに存在していた。

そして2002年から2019年までの間で、使われたのはたった一回、数ヶ月間のみ。

なにがあったのだろうか。


2002年、「zipair.com」はNorthern Dynamicsという米コンサル会社によって登録されている。

現在は存在していないこの会社の業容は「Public/Community Relations、Business Services、Political」などのコンサルであった。

偶然にもその2002年には、ちょうど「Zip airline」(カナダ)という航空会社が誕生していた。

「ZIP」自体は郵便番号を意味するし、JALがいうように「矢などが素早く飛ぶ様子を表した擬態語」らしいので、先にこういう名前の航空会社があってもおかしくない。

この「Zip Airline」はエアカナダ傘下のLCCで、結局この会社については2年でなくなったワケだが、2002年当時には当然WEBサイトをもっていた。

しかし「zipair.com」というドメインはすでにとられているので、「4321zip.com」というワケの分からないドメインを使うことになった。

そして17年に及ぶ「zipair.com」の歴史の中で、2002年の夏に1回だけ姿をみせたそのコンテンツの中身。

それはドメイン保有者の「Northern Dynamics」から新生LCC「Zip Airline」(カナダ)へのラブレターであった。

そのラブレター(2002年)は、下記WEBアーカイブで読むことが出来る。

ZipAir.com Domain Traffic Through the Roof, California Company Still Seeks Sale of Domain Name

要約すると、Northern DynamicsがZipAir(カナダ)に「zipair.comのドメインを買ってくれ。消費者観点でも買うべきだ」と想いを寄せているモノ。

なお「FOR IMMEDIATE RELEASE」という速報リリース形式をとっている。

Northern Dynamics曰く、、、

我々がもっているzipair.comへのアクセスが急増している。消費者は御社(ZipAir)のWEBサイトを探しているワケだ。

Northern Dynamicsとしては、もともとzipair.comを「誰かに売るため」に入手したワケではなく、事実「もうそろそろ使おうかな」と考えていたくらいだが(まだ使ってない)、こうなってくると話が変わってくる。

消費者が混乱しないように、公益性も考慮して、大事な「zipair.com」を御社に都合するのはやぶさかではない。

事実、たったの10万ドル未満ぽっち(1千万円未満)で売ってもいいとさえ考えている。

しかしZipAirは我々の呼びかけに答えるどころか、3日後には弁護士を介してこう言ってきた。

「zipair.comのドメインでWEBサイトを公開するのを禁じる。またそのドメイン名を使って航空関連の業務をしてはならない」

なんてことだ。

ZipAirは「消費者に優しい」ドメインに興味がないのか?

とはいえ、、、

取引は、まだ有効だ。

zipair.comの価値は、日々大きくなりつつある。

連絡を待つ。



ひと昔前は、新しい会社やWEBサイトをもってない会社のドメインを先行取得し、それを高く当の企業に売りつけるというのが流行った。

Northern Dynamicsについては、すくなくともリリース上では「たまたま取得していた」ということになるが。

ただ結局、カナダのLCC「Zip Air」はこのドメインを買わなかったモノと思われる。

「Zip Air」は、2年でつぶれた。

ドメインを保有していた「Northern Dynamics」も、少なくとも2006年くらいからWEBサイトが消え、現在では会社HPのドメイン(northerndynamics.com)も売りに出されている。

みんな、いなくなった。


問題となった「zipair.com」は、その後どうなっただろうか?

「Northern Dynamics」はどこかの時点でドメインを手放したようで、取扱業者を転々としている。

実質的に保有者がいない期間がどれくらいあったかは不明だが、このドメイン(zipair.com)を実際にWEB上のサイトとして使うものは、現れなかった

Domain history checker


そして現在、「zipair.com」はデルタ航空系列の「Northeast Airlines」が保有している。

DELTA Flinght Musium – Northeast Airlines

Northeast Airlines(northeastair.com)は、他にも類似ドメインを念のためにおさえている。

northeastairgroup.com、northeastairmotive.com、skyrangers.com、neair.net、etc….

その確保ドメインの中に、「zipair.com」が入っているというワケ。

これは転売用というより、普通に確保したドメインっぽい。

(一般的に企業は似た名前のドメインや将来使いそうなドメインなど、一式を確保する。仮に使わなくても)

しかし結局のところNortheast Airlinesは「zipair.com」を使わずに死蔵しているワケで、、、

こうして2002年から2019年の間。

「zipair.com」というありがち&価値がありそうなドメインは、哀しいかな、2002年の夏、幻の公開ラブレターとして数ヶ月間のみ出現し、その想いは届かずはかなく消え、空白のページとして今に至っている。


そんな感じ。

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tonogata
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