商標「白くま事件」で何が起きていたか
白くまアイス
最近、鹿児島旅行で「南国白くま」のアイスクリームを食べた。
白くま、大好き。
南国白くま- セイカ食品…鹿児島

あと、近所のスーパーでアイス「白くま」をパッケージ買いして、たまに食っている。
6本入り250円、センタンのやつ。
白くま – センタン(林一二)…大阪

「白くま」は色んなメーカーが出している。
丸永製菓の白くまとか。
しろくま – 丸永製菓

その上で、鹿児島旅行で見かけた「南国白くま」の「南国」にひっかかりを覚えてチェックしたら…
「白くま」の商標は大阪のセンタン(林一二株式会社)が持ってるんですね。
元々は鹿児島を中心とする九州が発祥の「白くま」だが、九州の会社は商標はとらなかったのかな?と。
経緯が気になったので更に調べて見たら、過去には裁判もやっていた。
原告は大阪(センタン=林一二)、被告は福岡(丸永製菓)。
鹿児島(セイカ食品)は、静観?
※ロン餅だが、掛かっている
この裁判は、「白くま事件」と呼ばれるらしい。
商標「白クマ」と商標法26条
なかなかこみ入ってそうだな、と。
今回はそこら辺について、メモメモ。
戦後の甘味(鹿児島編)
「白くま」の発祥はいくつかあるようだが、有力な説の1つが「天文館むじゃき」。
かき氷にミルクシロップをかけ、フルーツをトッピングしたところ、上からみたら白熊の顔に似ていた。
1949年(昭和24年)、「むじゃき」はこれを「白熊」として提供開始。
いまでも公式HPでは、「鹿児島名物 白熊 の元祖」と謳っている。
天文館むじゃき

時代背景として、終戦から1950年代前半にかけて、日本ではまだまだ物資が不足。
人工甘味料でない「本物の砂糖を使ったシロップ」や「濃厚な練乳(ミルク)」はごちそうだったらしい。
そこに、今で言うところ「インスタ映え」ならぬ、かわいらしい「白熊」風のデザート。
これが流行って、鹿児島の喫茶店やデザートで「フルーツを乗せた練乳がけかき氷」が広がる。
「鹿児島でかき氷といえば白くま」というご当地文化になっていった。
さらに、1950年代後半には九州一帯にもブームが拡散していく。
駄菓子屋の機転(名古屋編)
現在、「白くま」の商標をもっているのは大阪の林一二株式会社。
しかし、最初に「白くま」の商標を出願したのは、名古屋の「三ビシ製菓株式会社」だった。
出願は昭和33年(1958年)。
- 商標出願公告: 昭和42年 第35495号
- 公告日: 昭和42年11月9日
- 商願(出願番号): 昭和33年 第20677号
- 出願日: 昭和33年7月22日
- 出願人: 三ビシ製菓株式会社(愛知県名古屋市西区新道町3の54)
- 指定商品: 旧第43類(菓子及びパン)
- 商標: 白クマ

ちなみにJ-PlatPatで検索してでてきた書類には、「電波トー」とか「氷山に熊」など、他の出願情報もある。
「氷山に熊」は大阪の会社の出願だが、この時期に「冷たいもの=白くま」というイメージが全国的に流通していたのかもしれない。
時代背景的に、名古屋の「白くま」と通ずるモノを感じる。
なお「電波トー」は東京タワーのこと。
東京品川の食品会社が、同年に完成した東京タワーに便乗した菓子パンをだそうとした模様。
肝心の「三ビシ製菓株式会社」だが、今は存在しない。
だが名古屋の西区は駄菓子製造のメッカとのことで、なにか冷涼感のある駄菓子をだそうとしたのかな。
会社名で検索してヒットするのは「デブキャラメル」というユニークな名称のお菓子の空箱。
なかなか、遊び心のある会社のようです。
【希少】デブキャラメル 空箱 三ビシ製菓研究所

三ビシ製菓が白くまのお菓子を作ったなら、「デブキャラメル」のようなユニークな商品になっていたかもしれない。
ただ、三ビシ製菓が実際に「白くま」のお菓子を販売したかは、不明。
また商標出願は1958年だが、この時期は商標の混乱期。
1959年に商標法が大改正されたが、特許庁の作業がパンクし、旧商標時代の出願は放置。
1967年頃になって、貯まっていた商標出願がまとめて処理されていったらしい。
名古屋の駄菓子屋「三ビシ製菓」も、出願して、特許庁の審査までは終わった。
しかし特許庁の混乱期を経て、10年後に商標登録される頃には、商標の持ち主は三ビシ製菓ではなくなっていたかもしれない。
結局のところ、この商標を飲み込んで全国に版図を広げたのは、大阪であった。
大阪の飴屋が、総取りする。
飴屋の野望(大阪編)
現在、「白くま」の商標をもっているのは大阪の林一二株式会社。
ブランド名としては「センタン」で、自分がたまにスーパーで買う白くまアイスはこれ。
白くま – センタン(林一二)…大阪
ただ、三ビシ製菓から商標を譲り受けたタイミングは不明。
少なくとも1990年代には、林一二が「白くま」の商標を持っていた。
もう少し、経緯を追ってみる。
林一二は、1930年(昭和5年)に大阪で「林一二商店(センタン飴本舗)」として創業している。
もともとは飴屋で、センタン飴(仙丹飴)が有名。
1959年には、アイスクリーム製造も開始している。
- 1959年…アイスクリーム製造開始
- 1962年…「王将」(アイス)販売開始
- 1971年…「チョコバリ」(アイス)販売開始
残念ながら、林一二が「白くま」アイスを販売開始した時期は、分からない。
「うわさの白クマ」という商品名で出し始めたらしいが、時期不明。
いずれにせよ林一二は、王将・チョコバリのようなヒット商品を掲げ、アイス製造を拡大していく。
すでに、「白くま」商標も手中にある。
機は、熟した。
時は1994年、林一二は九州でアイス・メーカー(最大27社)に、商標権の侵害であるとして、一斉に警告を送る。
後の裁判記録によると、ほとんどの会社が「白くま」の名称をやめるか、林一二から許諾を受ける形となった。
鹿児島のセイカ食品は、別途「南国 白くま」で商標をとり、現在もその名称でアイスを販売している。
1人立ち上がって抵抗したのは、福岡の丸永製菓であった。
1996年、林一二は丸永製菓を訴え、裁判となった。
これが、世に言う「しろくま事件」である。
しろくま事件(表)

1996年、林一二は自身の商標権利を侵しているとして、丸永製菓を訴えた。
丸永製菓は、徹底抗戦の構えであった。
その裁判記録は以下。
大阪地方裁判所 平成8年(ワ)12855号 判決(しろくま事件 )
※大判例のアーカイブ
まず丸永製菓は、次の点を主張した。
アイスのパッケージには、社名やキャッチコピーを含む「Marunaga 九州名物 しろくま」と記載している。
「白くま」単体のマークである林一二の商標とは関係ない。
しかし実際には、文字デザイン・サイズからして「しろくま」が独立して目立つ形になっていた。
この主張は、認められなかった。
次に丸永製菓は、「そもそも『しろくま』は一般名称(慣用商標)なので、商標権は及ばない」と訴えた。
少なくとも九州全域では、「しろくま」は広く普及していた。
林一二は、以下を主張した。
- 「しろくま」がどの程度「一般名称」として普及しているかは、根拠やデータがない
- 九州のアイス会社(27社)に権利侵害通知をしたが、丸永製菓以外は誰も文句を言ってきてないし、そんなに「しろくま」は普及してないのでは?
- あと、九州「しろくま」は、「練乳とフルーツを加えた『かき氷』」(氷菓)で、林一二が製造している「アイス」ではない
九州、ここにきて「あの時反対しておけば…」という感もあるが、まぁ、結果は変わらなかったかもしれない。
裁判官の判決は、形状と商品ジャンルで分かれた。
判決がでたのは、1999年になってからだった。
- カップ入りの氷菓(かき氷)…一般名称(慣用商標)と言えるので、林一二の権利は及ばない
- 棒タイプのラクトアイス(乳固形分が3.0%以上)…林一二の権利を認め、丸永製菓は「しろくま」の利用不可
カップ入りのラクトアイスや、棒アイスとしてのかき氷はどうなるの?という気がするが…
判決で認められた一般名称(慣用商標)としての「しろくま」は、「喫茶店で提供される、氷を削って練乳をかけたもの」。
そのため製品として少しでも乳成分が濃くなったりすると、林一二の商標にひっかかる。
現在、世の中にはいろんな「しろくま」が売られている。
コンビニのPB製品でも「しろくま」は多い。
セブンイレブンの「練乳の味わい白くま」、ミニストップのハロハロ「白くま」。
こうした製品のパッケージには、ひっそりと「※『白くま』は林一二株式会社の登録商標です。」と書かれているらしい。
裁判で争った、丸永製菓の製品にも。
こうして1999年…
林一二は、「市販アイスのしろくま界」を統一したのであった。
しろくま事件(裏)

裁判記録の中で、以下の文言が気になっていた。
原告は、(一)の商標権(以下、その登録商標を「本件登録商標」という。)につき、(二)のとおり専用使用権の設定を受け、現在、(三)のとおり専用使用権の設定を受け、登録を了している(甲一、二、四二ないし四五)。
なんで商標を持っている林一二が「専用使用権」(独占ライセンシー)を持っている話になるのか…。
あまり気にせずここまで書いたが…
ここにきて、ようやく意味が分かった。
とはいえ、ここまで書いた分を書き直す気には全くなれないので、追記としてメモメモします。
J-PlatPatの「経過情報照会」に、その経緯があった。
※登録0778416

簡単に言うと、裁判当時、林一二は商標を持ってなかった。
当時「白くま」商標を持っているのは名古屋の個人で、「三ビシ製菓株式会社」の関係者かもしれない。
そして林一二は、その個人(名古屋)から独占使用権をもらっていたのだ。
つまり、
九州のメーカー(27社)に警告を送ったときも、
丸永製菓と裁判を始めて判決が出るまでの間も、
林一二は独占使用権の状態。
商標のオーナーではない。
えー、、、っていう(笑)
そして「経過記録」をみてて、もう1つ分かった。
丸永製菓は、裁判中に裏で「不使用取消審判」でカウンター攻撃をしかけていた。
商標をもってる個人(名古屋)が「3年以上使ってない状態」なので、商標は無効である、と。
審判情報1 全部取り消し 平09-002837
審判記事 全部取り消し 平09-002837 (1997/02/20) 審判(判定含む) 請求不成立 最終処分日(1998/06/10)
請求人・代理人記事 請求人 40- 福岡県久留米市 法人 丸永製菓 株式会社
審決の決定記事
審決対応番号(1)
商標 審判 全部取り消し 1 商50条 不使用による取消し 結論(Y 無効でない) 分類(243)
ただ、このカウンター攻撃は失敗に終わり、棄却された。
そして裁判などが片付いた後の2000年。
林一二は、商標を買い取った。
経過記録
登録記録 本権移転登録申請書(譲渡) 2000/03/24
時系列を整理すると、以下。
- 1994年2月…林一二が専用使用権を得る
- 1994年3月…林一二が九州27社への一斉警告
- 1996年…裁判「しろくま事件」開始
- 1997年…丸永製菓が「不使用取消審判」でカウンター→失敗
- 1997年3-6月…裁判と並行し、商標合戦が加速
- 丸永製菓が「マルナガの白くま」を新規出願
- 林一二がひらがなの「白くま」を新規出願
- 1999年…裁判「しろくま事件」終了、林一二が「市販アイス白くま界」を統一
- 2000年…林一二が「白くま」商標を買い取る
特に、1994年2-3月の動きが、こう…。
早いですね。
ホワイトアウトを抜けて(鹿児島編)
1990年代、白くま界には吹雪が吹き荒れた。
裁判で戦い、和解し、急展開の時代であった。
そんな視界不良、ホワイトアウトの闇夜がようやく明けた後…
晴れ間の差し始めた大地を、ヒタヒタと突き進む姿があった。
鹿児島。
白くま発祥の地、鹿児島「セイカ食品」の動きがなかなかユニーク。
まず、大阪vs福岡の裁判が終わった後の2000年。
セイカ食品は「南国 白くま」(菓子及びパン)で商標をとった。
続いて2002年。
セイカ食品は自社商品が、「林一二の商標に関係ないよね?」という審判を特許庁に求め、問題ないことを確認した。
審判情報2 判定 2002-060017
請求人 46- 鹿児島県鹿児島市 法人 セイカ食品 株式会社
被請求人 27- 大阪府大阪市 法人 林一二 株式会社商標 審判 判定 9 その他 結論(ZA 属さない) 分類(243)
これで、ひと安心。
さらに2020年以降、セイカ食品はグッズ展開用の商標も取得。
- 2020年…「南国 白くま」(ティーシャツ,被服,運動用特殊衣服,履物)の商標取得
- 2025年…「南国 白くま」(フィギュアおもちゃ,おもちゃ,etc)の商標取得
最近だと、ガチャとかでミニチュアがありますね。
セイカ食品株式会社 ミニチュアチャームコレクション2

ちなみに「白くま」系で、「Tシャツ」や「フィギュア」の商標をとってるのは、セイカ食品くらいかも。
面白いのは、次の一手。
2026年6月、セイカ食品は「南国 白くま」(ごま豆腐,豆腐,etc)を取得している。
※登録7050868
商品区分としては、以下が含まれる。
スーパーのチルド・惣菜コーナー等で使われる分類(29)らしい。
ごま豆腐,豆腐,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,納豆,菓子(動物性食品又は野菜その他の食用園芸作物を主原料とするものに限る。),乳製品,食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物,豆
「しろくま」風の、新しい商品をだすのかな?
杏仁豆腐とか?
しろくま風の杏仁豆腐なら、過去に例がないわけではないし、美味そう。
もしくは冷凍フルーツを使った、スムージー?
なんか、コンビニのスムージーは今でも流行ってるようだしな。
あとは、豆腐+フルーツのなにか?
ちょっと思いつかないが。
どうだろうな。
90年代のホワイトアウトを抜けた、新時代の「しろくま」。
ちょっと、楽しみですね。
Appendix
自分がちぇけちぇけしてる時にメモった商標のメモ。
※日付については、「出願日」でなく「登録日」だけメモった
| 出願番号 | 登録番号 | 商標(検索用) | 出願人 | 登録日 | 区分 |
|---|---|---|---|---|---|
| 登録0778416 | 商願昭33-020677 | 白クマ | 林一二株式会社 | 1968/4/17 | 菓子,etc |
| 登録4221458 | 商願平09-027763 | マルナガの白くま | 丸永製菓株式会社 | 1998/12/18 | 菓子及びパン,氷 |
| 登録4248257 | 商願平09-129893 | 白くま | 林一二株式会社 | 1999/3/12 | 菓子及びパン |
| 登録4482511 | 商願2000-083562 | 南国白くま | セイカ食品株式会社 | 2001/6/15 | 菓子及びパン |
| 登録4496506 | 商願2000-083561 | セイカの白くま | セイカ食品株式会社 | 2001/8/3 | 菓子及びパン |
| 登録4575539 | 商願2001-077056 | KUBOTAの白くまくん | 久保田食品株式会社 | 2002/6/7 | 菓子及びパン |
| 登録4657777 | 商願2002-060847 | 元祖 鹿児島\南国白くま | セイカ食品株式会社 | 2003/3/28 | 菓子及びパン |
| 登録4964222 | 商願2005-102444 | むじゃきの白熊 | 株式会社天文館むじゃき | 2006/6/23 | アイスクリーム用凝固剤,etc |
| 登録5397847 | 商願2010-075311 | 蒸氣屋の白くま | 有限会社薩摩蒸氣屋 | 2011/3/11 | 菓子及びパン |
| 登録5576203 | 商願2012-100585 | 白くま親子 | 山福製菓有限会社 | 2013/4/19 | 菓子及びパン |
| 登録5707410 | 商願2014-043062 | よくばり果実の白くま | 株式会社 セリア・ロイル | 2014/10/3 | アイスクリーム,氷菓,etc |
| 登録5958879 | 商願2016-117410 | 白くまどん | 寿スピリッツ株式会社 | 2017/6/30 | 菓子・パン |
| 登録6243569 | 商願2019-093496 | 朝の白くま | 森永乳業株式会社 | 2020/4/7 | 食用油脂,乳製品,食肉,etc |
| 登録6316564 | 商願2019-166975 | 俺の白くまのめるらしい | 森永乳業株式会社 | 2020/11/13 | 食用油脂,乳製品,食肉,etc |
| 登録6316565 | 商願2019-166976 | 至福の白くま | 森永乳業株式会社 | 2020/11/13 | 食用油脂,乳製品,食肉,etc |
| 登録6320806 | 商願2020-068762 | 南国白くま | セイカ食品株式会社 | 2020/11/25 | ティーシャツ,被服,運動用特殊衣服,履物 |
| 登録6591455 | 商願2021-133718 | 北の白くま | 株式会社久原本家グループ本社 | 2022/7/25 | 菓子(29),菓子(30),31,43 |
| 登録6983628 | 商願2025-084733 | 南国白くま | セイカ食品株式会社 | 2025/11/5 | フィギュアおもちゃ,おもちゃ,etc |
| 登録7050868 | 商願2025-110408 | 南国白くま | セイカ食品株式会社 | 2026/6/3 | ごま豆腐,豆腐,etc |
ほい。
そんな感じ。



