村上ファンド事件とは何だったのか?「生涯投資家」(村上世彰)、「ヒルズ黙示録・最終章」(大鹿靖明)、「ゼロ」(堀江貴文)

夏休みである。

暇に飽かして、何冊かの本を読んだ。

いわゆる「村上ファンド事件」「ライブドア事件」についての本。

あの狂騒は、いったい何だったのか?

当方素人の一般人なので小難しいことは分からないが、「流れ」や「背景」をざっくり把握しつつ・・・

以下、読んだ本について順番に感想など。

「生涯投資家」(村上世彰)

まず最初は、最近出たばかりの「生涯投資家」(村上世彰)。

村上ファンド事件」の当事者である。

[asin:B072KGSJLR:detail]

村上氏が逮捕された理由は、「ニッポン放送株」を巡るインサイダー疑惑であった。

インサイダー情報を「聞いちゃった」お相手は、ホリエモン率いる「ライブドア」

もともと村上氏は、「ニッポン放送株」を狙い買い進めていた。

フジテレビやサンケイビルの親会社でありながら、「ニッポン放送」自体は割安な株価。

ニッポン放送の株を買い占めれば、子会社のフジテレビや豊富な不動産をもつサンケイビルも手に入る。

不均衡な資本関係を手玉にとった、超お得な銘柄。

しかし「ニッポン放送」がお手頃といっても、村上ファンドの資金だけでは足りないので他にも色々声を掛けていた。

その1つが、ライブドア=ホリエモン

ニッポン放送の支配権をとる上で「味方になってくれそうな会社」が株を持っててくれれば、座組はあとで考えられる。

自社だけでは無理なので、マネーゲーム参加者を鋭意募集していた形。

ただ村上氏はライブドアとの打ち合わせで、ホリエモンが「TOB(公開買付け)はどうですか/するつもり」と言うセリフを聞いてしまう。

これが想定外だった。

村上氏は「そんなコトを気軽に言うな」(インサイダーになっちゃうから)とスグにホリエモンを制止したものの、「聞いちゃった」のは事実。

他者(ライブドア)がTOB(公開買付け)することを公表前に知った場合、その情報をきいた者は以降その株を売買できない。

(TOBは市場価格よりプレミアムをつけて買付されることが多く、その情報を元に先に入手していれば大もうけできてしまう)

しかしこの後も、村上氏はニッポン放送株を買い進めた=検察が指摘する「インサイダー」疑惑。

一方村上氏は、「ライブドアにそんな大それたことをする資金力はないので本気にしなかった」=インサイダーではない主張。

村上氏はライブドアの資金調査をしたりして、「そんなお金ないハズ」と本気で思っていた模様。

裁判でも「ライブドアによるTOBの実現性のなさ」を主張した。

しかし判決としては、「実現性はともかく、聞いちゃったんだからインサイダー」で有罪。


ちなみに「そんな金ない」と村上氏に思われていたライブドアは、禁断のMSCB(転換社債型新株予約権付社債)を使ってソレを成し遂げてしまった。

またライブドアは、実際にはTOBではなく「時間外取引」でニッポン放送株を買い進めたが、上記裁判では「時間外取引もTOB相当」として扱われた模様。


ここら辺までが、「村上ファンド事件」の概要。


本書「生涯投資家」では、

  • 事件含め、村上氏が練っていた戦略やその顛末
  • もともと村上氏が持っている「コーポレートガバナンス」の思想

について書いてある。

読んでみると非常に読みやすい文章で、村上氏の考え方もスゥッと頭に入ってくる。

氏の考え方は非常に合理的で、なんであんな尖ったこと(TOBとか)を盛んにしていたのかも「読めば納得」みたいな。

「あれ、実は日本の株式市場に良い影響を与えた、いい人だったのかな?」みたいな。

しかしまぁ、本人の言うことなので恣意的に「語られざる部分」もある。

なぜこんなに立派な考えを持った人が、ああなってしまったのか?

そこら辺は次の本を読むと、少し分かってくるのであった。


「ヒルズ黙示録・最終章」(大鹿靖明)

村上ファンド・ライブドアについて追ったノンフィクション「ヒルズ黙示録・最終章」(大鹿 靖明)である。

ヒルズ黙示録・最終章 (朝日新書)

ヒルズ黙示録・最終章 (朝日新書)

  • 作者:大鹿 靖明
  • 発売日: 2012/08/01
  • メディア: Kindle版

村上ファンド総帥の村上彰世被告は、はたして「稀代のペテン師」なのか、早すぎた改革者なのか。

堀江、村上両被告の裁判が佳境になるなか、焦点の村上被告が逮捕直前まで進めていた仰天構想を暴き、疑惑の真相、検察との暗闘の核心に迫る本格ノンフィクション。

筆者は「AERA」で経済分野の特ダネ連発の一線記者だ。

新潮や講談社ノンフィクション賞候補になった前著『ヒルズ黙示録』の野心的完結編。

村上ファンド事件ライブドア事件について、整理された1冊。

経済に疎い自分にも分かりやすくかかれており、読みやすかったです。

村上ファンドやライブドアについて知りたい場合、この1冊がキーになる。

村上氏、ホリエモン、検察。

3社それぞれの思惑がグルグルと渦巻く様が、筆者の調査やインタビューによって次第に浮かび上がってくる。

「そうだったのか!」の一言。

よく整理された、名著ですね。

この中では、村上氏が志した「コーポレートガバナンス」と、とはいえ「それを捨ててでも儲け主義に走らざるを得なかった事情」なども、解説されている。

ここにきて、「生涯投資家」(村上世彰)を読んだ後の「ひっかかり」も、腑に落ちて納得。


またココでは、一方のライブドアについても詳細に解説されている。

ライブドア内部の動き、誰が・何をやったのか。

何を考えていたのか。

当時のニュースをあまり覚えてないので、結局「ホリエモンはどんな悪いことをして、罪に問われたのか」というのが分かっていなかった。

この本で、それが理解できて良かった。

結局のところ、ホリエモンは経営責任を問われて刑務所に入った。

罪に問われた「悪どいファイナンス」は部下が編みだし・実行した。

でもホリエモンもそれ、違法性を知ってて部下に許可したよね、という。

知らなくても結局、経営責任だけど。

※ホリエモンは裁判では「知らなかった」と主張していた

※部下の方は一貫して「堀江の指示だった」で裁判を早期に終了

また、裁判の過程でホリエモンは「信頼していた部下に裏切られていた=部下が金を中抜きしていた」ことを知る。

えー、そんなこともあったのか、と。

当時のライブドアは、本当にカオスだったんだな、と。


そんなこんなで、今度はホリエモンの方に興味が移ってくる。

部下に裏切られ、会社を失い、刑務所に入って、出てきた男。


結局ホリエモンは今、何を考えているのか?

というか、「ホリエモン」とは一体なんだったのか?


「ゼロ-なにもない自分に小さなイチを足していく」(堀江貴文)

ホリエモンの自叙伝ですね。

ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく

ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく

  • 作者:堀江 貴文
  • 発売日: 2013/11/05
  • メディア: Kindle版

再読だけど、村上ファンド事件ライブドア事件の背景をざっくり知った後で読むと、また読後感が異なる。

前に読んだ後と、事件の概要を知った後では、こう、受け止め方が違うというか。


ただまぁ、何度読んでも面白いのは変わらない。

何より、「読後感が爽やか」なのがいいですね。

この夏の、個人的な一連の読書を締めくくるには最適でした。


そんな感じ。

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