「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」がスゴかった。マイクロ秒を競いアルゴリズムを悪用して莫大な金を稼ぐ人たち。

今更だが、「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」を読んだ。

前から気になって買ってはいたが、なんとなく読む機会なくiPadの中で眠っていたワケだが、どうしてなかなか。
こんな面白い本には「本当に久しぶりに出会った」というくらいの傑作だった。

メチャクチャ面白かった。

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

本書は、ノンフィクション

ウォール街で暗躍するHFT(超高速取引)と、それに立ち向かうビジネスマンの話である。
「HFT」(超高速取引)という巧妙かつ大掛かりな手口を、主人公たちが徐々に明らかにしていく。

その「HFT」。悪事ながら、そのスケールの大きさに驚く。
そして、その手口のテクニカルなディテールがまた、面白い。

「超高速取引」とあるように、高速な通信で多頻度に株を取引する。
ネット回線を通じて株の取引をするワケだが、ネットの回線もミリ秒・マイクロ秒の世界で言えば「距離」で到達時間に違いがでる。
そのため、より高額な回線ケーブルを使い、証券取引所のデータセンターの近くに引っ越し、電話会社秘蔵の物理的な回線ルートを解析する。
1ミリ秒でも、早く。

まぁ、そこら辺は分かる。
想像の範囲内よね、と。

ただ、その実行部分というのは、想像をはるかに超えていた
そんなコトができるか。というか「ヤル」のか、と。
あまりに大掛かりで、(悪事ながら)鮮やかな・・・


シンプルな例。

例えば、大口の買い注文をこなすには、1つの証券取引所で売りに出されている株では足りない。
なので、複数の取引所で少しずつ買い集める必要がある。

そこでHFT業者は取引所Aに小口の売り注文を餌としてまいておき・・・
いざ買いが入ったら、その注文の「通信」が回線を通じて他の取引所に到達する前に、先回りして買い占める。
そして、ちょっと価格を上乗せして売りに出し、カモがくるのを待つ。
いわゆるフロント・ランニング

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これが本書に出てきた一番シンプルな手口なんだけど。

ただコレをHFT業者が実行するには、以下の条件が必要になる。

  • 最初に注文が到達する取引所が、「どの取引所」かを知っている必要がある
  • 餌(小口の売り注文)に食いついた客が「誰か」(他の取引所でどの程度買いそうか)を、推測する必要がある
  • そして当然ながら、「先回り」するために高速な通信手段をもっている必要がある

どうしてそのようなコトが可能なのか?

これらの条件を満たさなければ、仮に「人より早く注文できる」というだけでは、大した儲けにはならない。
しかしHFT業者はこうした手口をまさしく「光速」かつ「大量」に実行し、何百億という金を掠め取っている。

そこには大口注文をこなすための「注文実行ルーターのアルゴリズム」があり、そのアルゴリズムが基準とする「制度の抜け穴」があり、それを(部分的にでも)利用して儲けてきた「業界全体の深い闇」がある。
その闇は、思った以上に黒い。

そして全ては、投資家が少しずつ損するによう巧妙に仕組まれた「罠」なのだ。

こうした「闇」を、はみ出し者のネットワーク技術者プログラマーが、悪戦苦闘しながら解き明かしていく。

それらの技術集団を率いる主人公は、日系カナダ人のブラッド・カツヤマ

氏の挑戦は現在も続いており、最近も以下のような記事が出ていた。

forbesjapan.com


ちなみに手口の技術的な側面的には、通信速度の「ミリ秒」とか「マイクロ秒」の話になる。
そのため、もし少しでもネットワークやサーバを扱ったことがあったり、通信速度やルーティングについて調べてみたことがある場合は、かなり楽しめる内容だと思う。
更に「株」に手を出したことがある人なら、鉄板で面白いハズ。

もちろんそうじゃない場合でも、株をやったことがある人にはオススメ。
なにより、これが現在進行中のノンフィクションだというのだから、ただただ驚くばかり。

そして起業家(ブラッド)を取り巻く、ウォール街に生息する技術者たちの姿。
Subversionにプログラムのソースを登録しただけで、ゴールドマン・サックスから訴えられたセルゲイの話。
ITに無知なFBIや金融会社から過剰な罪をおしつけられ、刑務所に入れられた男。

プログラマーは、そこら辺とか読んでみると面白いと思う。
なんというか、そこら辺だけは読後感的にモヤモヤするけど(笑


そんな感じ。

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