- 作者: コーマック・マッカーシー,黒原敏行
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/06/17
- メディア: ハードカバー
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(おそらく)核の冬を描いた終末SF。
太陽が雲に隠れ、灰が降り積もり、気温は下がり続ける。
数少ない生き残りの人々は飢え、人肉を求めて殺し合う。
そういう終末観漂うアメリカ大陸を、ひらすら南へ移動する父子の話。
飢えと、寒さと、他の人間からの襲撃に屈しそうになりながら
南へ南へと旅をつづける。
冬がせまり、早く南にいかないと死んでしまう。
すでに雪が降り始めている。
この作品では、会話文にかぎ括弧がつかない。
旅を続ける父と子の会話が、地の文でモノローグのように淡々と綴られる。
友達はいた?
ああ。いたよ。
たくさん?
うん。
みんなのこと憶えてる?
ああ。憶えてる。
その人たちどうなったの?
死んでしまった。
みんな?
そう。みんな。
もう会えなくて寂しい?
うん。寂しい。
ぼくたちどこへ行くの?
南だ。
この、かぎ括弧を使わず「音」を強調しない文体は、
生の気配のない、終末的な静寂さを効果的に演出していると思う。
それにこの静寂さというのはまた、父子の凍える寒さもまた訴えかける。
人は雪の降る寒い日には静寂を感じるが、これには理由があって、雪の結晶が構造的に複雑なため、音を吸収してしまうかららしい。
そういうわけで、静寂と寒さというのは何か直感的に頭の中で紐づいちゃってるんだろうと思う。
読みながら、文章で父子の置かれた寒さが実感されるような、不思議な作品だった。
それにしても、コーマック・マッカーシーは初めてだったが、文章の素晴らしさに驚いた。
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