「沖縄にプライベートビーチは存在しない」という話の背景

沖縄のプライベートビーチ事情

コロナ禍になってからは、毎年のお楽しみにしていた海外ビーチリゾートに行けないので、沖縄のビーチリゾートに行くようになった。

沖縄のビーチリゾートに宿泊する際、チェックイン時に何度かホテルスタッフから「沖縄は条例でプライベートビーチが設定できないので~」という言葉をきいた。

具体的には「ビーチ側にタオルバーはありますか?」とかビーチ利用に関して色んな質問をしたり、挨拶代わりのトークをしたタイミングでみられた発言。

その発言を聞く度に「あ、そうなんだ。沖縄にはプライベートビーチは存在しないんだ」と思ってたんだけど、最近もちょっとそういうことがあったので、状況をチェックしてみようかな、と。

海浜を自由に使用するための条例(沖縄県)

もともと日本においては、ビーチは国有地なのでプライベートビーチというのが難しい。
ただし「国有地」というだけでは、土地の囲い込みによって実質的なプライベートビーチが可能かもしれない。

その上で、「沖縄にはプライベートビーチは存在しない」という文脈で引き合いにだされるのは、沖縄県の条例「海浜を自由に使用するための条例」のようですね。

ポイントを抜粋すると、以下あたり。

■条例
第6条 海浜及びその周辺地域において事業を営む者及び土地を所有する者(以下「事業者等」という。)は、公衆の海浜利用の自由を尊重し、公衆が海浜へ自由に立ち入ることができるよう配慮するとともに、県及び市町村が実施する海浜利用に関する施策に協力しなければならない。

■施行規則
第2条 条例第6条に規定する事業者等が配慮すべき事項は、次の各号に掲げるとおりとする。
(1) 公衆が海浜へ自由に立ち入ることができるよう適切な進入方法を確保すること。
(2) 公衆の海浜利用又は海浜への立入りの対価として料金を徴収しないこと。

まず、宿泊者以外の人がビーチにアクセスするための道を用意すること。

次に、「ビーチ利用の対価を徴収してはいけない」こと。

ただし、この条例に従わなかった場合の罰則というのは、あんまない感じかな。
「勧告を受ける」「勧告内容を公表される」程度。

第9条 知事は、事業者等に対し、この条例の目的達成に必要な限度において、前条の規定による措置に関し報告若しくは資料の提出を求め、又は助言若しくは勧告をすることができる。
(公表)
第10条 知事は、前条の勧告をした場合において、その勧告を受けた者がその勧告に従わないときは、その旨及びその勧告の内容を公表することができる。
(規則への委任)

沖縄県の「ご意見箱」をチェックすると、上記条例に関するクレームと、沖縄県側の対応をみることができた。
※ただし2012年と古い内容ではある

Q:大泊ビーチを今年も訪問したが、以前と状況はさほど変わりなく、ビーチを利用するなら使用料払えという、違法な放送で観光客を不快にさせる状態が続いている。素早い解決策を願う。
回答:土木建築部 海岸防災課 平成24年9月4日

ご意見をいただきありがとうございます。
本件については、昨年度改善に向けて、沖縄県海岸防災課、中部土木事務所、うるま市、うるま警察署の4者にて、会議、現場確認を行った上で、大泊ビーチ開設者と面談を行い、口頭や文書により条例遵守の指導を行いました。
今回のご指摘を受けて、早速、大泊ビーチや伊計自治区長を訪問して調査を行うとともに、大泊ビーチ開設者に「海浜を自由に使用するための条例」第3条「何人も公共の福祉に反しない限り、自由に海浜に立ち入り、これを利用することができる」を遵守するようにと、改めて説明したところです。
今後とも海岸管理者として、海岸の巡視と情報収集を行いたいと思います。

沖縄県 県民ご意見箱

まぁ、イタチごっこみたいな感じなんでしょうかね。
良く分かりませんが。

いずれにせよ、「ビーチの使用料」という名目で料金を徴収することは条例違反になる。
その代わり、駐車場代・トイレ/シャワーなどの施設利用料として料金を徴収していることは、結構あるようです。

沖縄のプライベート・ビーチでは,法的には入場料という名目では料金が徴収できないため,ビーチへの入場の対価としてではなく,駐車場,トイレ,および/もしくはシャワーなどの利便施設を使用する対価として,料金を徴収しているケースが多い.

ビーチの観光活用における維持管理費用の負担のあり方について

恩納村海岸管理条例(沖縄県恩納村)

リゾートが多い恩納村では、ビーチの管理を恩納村行い、恩納村海岸管理条例を定めている。
恩納村海岸管理条例

この条例により、恩納村はビーチの使用許可(占有許可)を事業者(ホテル)に与えつつ、ビーチの管理を事業者に委任しているとのこと。

ただしプライベートビーチが許可されているワケではなく、あくまで使用許可が与えられているだけ。

第5条 村長は、前条第2項の申請があった場合において、当該申請が次に掲げる基準に適合しないと認めるときは、許可してはならない。
(4) 公衆の海岸の利用に支障を及ぼさないこと

ここら辺の関係性は、「ビーチの観光資源としての活性化に向けたナレッジ集」(国土交通省 観光庁 観光資源課 平成31年3月)の表が分かりやすかった。

ビーチの観光資源としての活性化に向けたナレッジ集 国土交通省 観光庁 観光資源課 平成31年3月

ビーチの管理は自治体とかボランティアとかもやりつつ、まぁ、予算の限界はあるワケで。
というか、自治体的には「予算的になかなか難しいですな」というのが現状のようですね。

恩納村では占用許可を受けたホテルが、ホテル前のビーチに関しては管理を実施(清掃・砂浜の維持・安全監視など)している。
ただし許可を受けたホテルが、利用者を制限することはできない。

ホテル側としては、営利活動のためにビーチの管理費用をかけつつ、利用者の制限はできない形。
その分、その「占用許可を受けた立地を活かして、宣伝広報して部屋代を稼ぐ」という感じかな。

ホテル側のビーチ管理費用

では、ホテル側はビーチの管理にどれくらいの費用がかかっているのか?

かなり古い資料(2003年)だが、以下のようなデータがあった。
プライベートビーチを活用した海岸空間の環境管理手法に関する研究

プライベートビーチを活用した海岸空間の環境管理手法に関する研究 ビーチの管理費用

ホテルによって異なるが、年間1億円から数百万円の費用をかけているようですね。
今で言う、ANAインターコンチネンタル万座が年間1億の費用をかけてたりする、と。

ビーチ管理費用の内容としては、以下あたり。

  • 社員による清掃・ゴミ処理
  • オニヒトデの除去
  • ビーチクリーナー・ブルドーザーの投入
  • ホテルによっては、サンゴの保全・移植なども

ビーチは毎日、漂着したゴミ・海藻が溜まるので、清掃が必要な感じですかね。
最近だと、軽石の漂着問題もあるだろうし。

こうした民間企業によるビーチ管理については、行政的には助かっている一面もあるようです。

県の海岸管理者によれば、近年の海岸管理行政は、地方財政が困窮していることからも海岸管理に費やす予算はわずかなものであるため、県内の多くの海浜地で実施される民間の自主的な海岸管理は、管理経費の節減、業務の補完といった点で一助になっているという。

ただし先述の通り、条例に反して利用者を制限するような業者とのイタチごっこというか、そういう問題もあるんだろうとは思いますが。

「プライベートビーチ」の意味

ちなみに上述のような状況でありつつも、ホテル側では「プライベートビーチ」を謳っていることが多い。

例えば、ANAインターコンチネンタル万座リゾート(恩納村)の公式HPでは、トップページに以下の文言がある。
※このホテルは恩納村で、村からビーチ使用許可を得ているパターン

白く美しい砂浜とエメラルドグリーンに輝く海。
サンゴ礁に囲まれ最高の透明度と美しさを誇る贅沢なプライベートビーチは、訪れる人々を包み込みます。
沖縄のリゾート地、恩納村でこれまでにない感動の体験を。

https://www.anaintercontinental-manza.jp/

万座ビーチは宿泊客以外がビーチに降りる道があるし、普通に一般人でも使えるようです。

なので、沖縄で「プライベートビーチ」という場合は、「宿泊客しか使えないビーチ」ということでなく、「ホテルが管理(清掃)してキレイにしてるビーチが目の前にありますよ」みたいな意味合いなのかもしれないですね。

後記

ホテルのスタッフからの説明で、たまに「沖縄は条例的にプライベートビーチはないので~」という発言があり気になっていたが、上記のような状況なのね、と。

ちなみに、個人的によくチェックイン時にタオルバー(ビーチ用タオルの貸し出しスポット)の場所とか営業時間を質問することが多いんだけど、「そもそもパブリックビーチなのでタオルバーはホテルの敷地内にしかない」的な文脈で、上記のような枕詞が入ってくることが多い。

ホテルによってはパブリックビーチ内に宿泊者専用のタオルバーを設置してるところも多い気がするけど、いずれにせよタオルバーの話ってホテル公式サイトに書いてないことが多い一方で、ビーチリゾートの場合はチェックインしたらすぐビーチ&プールに行くことが多いので。。。

そもそもタオルバーの情報もホテル公式サイトに書いてくんないかなぁ、、、という。

ほい。

そんな感じ。



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